Notionデータベースで実現するクライアント・案件情報の一元管理と効率化
導入:クライアント・案件情報の散在による非効率性
Webディレクション業務を含む多くのチームにおいて、クライアント情報や進行中の案件情報は様々な場所に散在しがちです。スプレッドシート、メール、チャットツール、個人のメモなど、情報が点在することで、最新情報の把握に時間がかかったり、情報の共有漏れが発生したりする可能性があります。これは、チーム全体の連携を阻害し、結果として業務の非効率化を招く要因となります。
Notionのデータベース機能を活用することで、これらの情報を一元管理し、チーム全体でリアルタイムに最新の情報を共有できる環境を構築できます。本記事では、Notionデータベースを用いたクライアント情報と案件情報の一元管理システム構築方法、およびその運用を通じた効率化テクニックについて解説します。
Notionによるクライアント・案件管理システムの基本設計
クライアント情報と案件情報をNotionで一元管理するためには、複数のデータベースを連携させる設計が有効です。最低限必要となるのは、「クライアント」データベースと「案件」データベースです。さらに、必要に応じて「担当者」「連絡先」「ファイル」などのデータベースを追加し、関連付けることで、より詳細な情報を管理できます。
このシステムの核となるのは、データベース間の「リレーション」機能です。例えば、「案件」データベースのエントリ(各案件ページ)は、特定の「クライアント」データベースのエントリと関連付けられます。これにより、クライアントページからはそのクライアントに関連する全ての案件一覧を確認できるようになります。
必要なデータベースの洗い出し例
- クライアントデータベース: 顧客企業の基本情報を管理します。
- 案件データベース: 各プロジェクトや依頼に関する情報を管理します。
- 担当者データベース(任意): 社内の担当者情報を管理し、案件に割り当てます。
- 連絡先データベース(任意): クライアント側の担当者連絡先を管理します。
- ファイルデータベース(任意): 案件に関連する重要なドキュメントやファイルを管理します。
具体的なデータベース構築手順
ここでは、「クライアント」データベースと「案件」データベースを例に、基本的な構築手順を説明します。
1. 新規データベースの作成
サイドバーまたは任意のページ上で /database
と入力し、「データベース - インライン」または「データベース - フルページ」を選択します。今回はフルページで作成する前提で進めます。
- 「クライアント」データベースを作成します。
- 「案件」データベースを作成します。
2. 各データベースのプロパティ設定
データベースには、管理したい情報に応じたプロパティを設定します。
クライアントデータベースのプロパティ例
| プロパティ名 | タイプ | 説明 | | :------------- | :---------------- | :----------------------------------------- | | 名前 | タイトル | 企業名など、クライアントの名称 | | クライアントID | テキスト | 社内での管理ID(任意) | | 業種 | セレクトまたはマルチセレクト | クライアントの業種 | | 担当者(社内) | 関係 | 社内の担当者データベースとリレーション | | 連絡先担当者 | 関係 | 連絡先データベースとリレーション(任意) | | WebサイトURL | URL | クライアント企業のWebサイトURL | | 備考 | テキストまたはリッチテキスト | 特記事項など | | 関連案件 | 関係 | 案件データベースとのリレーション |
案件データベースのプロパティ例
| プロパティ名 | タイプ | 説明 | | :------------- | :---------------- | :--------------------------------------------- | | 案件名 | タイトル | プロジェクトや依頼の名称 | | クライアント | 関係 | クライアントデータベースとのリレーション | | 案件ステータス | セレクト | 例: 提案中, 進行中, 完了, 保留, 中止 | | 優先度 | セレクト | 例: 高, 中, 低 | | 担当者(社内) | 関係 | 社内の担当者データベースとリレーション(複数選択可) | | 開始日 | 日付 | 案件の開始日 | | 期日 | 日付 | 案件の最終期日またはマイルストーン期日 | | 予算 | 数値(通貨) | 案件の予算額 | | 備考 | テキストまたはリッチテキスト | 案件に関する特記事項 | | 最終更新日 | 最終更新時刻 | 情報がいつ更新されたか自動記録 | | 関連ファイル | 関係 | ファイルデータベースとリレーション(任意) | | クライアント連絡先 | ロールアップ | クライアントデータベースから連絡先を取得 |
3. リレーションの設定
「クライアント」データベースと「案件」データベースの間でリレーションを設定します。
- 「クライアント」データベースに「関連案件」というプロパティを作成します。プロパティタイプは「関係」を選択します。
- 関係を作成するデータベースとして「案件」を選択します。
- 「両方向の関係を作成する」をオンにします。これにより、「案件」データベース側にも自動的に「クライアント」という名前のリレーションプロパティが作成されます。
- 「関係を作成」をクリックします。
同様に、担当者データベースなど、他のデータベースとのリレーションも設定します。
4. ロールアップの設定(応用)
リレーションを設定すると、関連するデータベースの情報も参照できるようになります。ロールアップ機能を使うと、関連データベースから特定のプロパティの値を集計・表示できます。
例:「案件」データベースに「クライアント連絡先」というプロパティを作成し、タイプを「ロールアップ」とします。 * 関係: 「クライアント」リレーションを選択。 * プロパティ: 関連するクライアントデータベースから取得したいプロパティ(例: 「連絡先担当者」リレーション)を選択。 * 計算: 必要に応じて集計方法(例: 元の値を表示、すべてカウントなど)を選択します。ここでは「元の値を表示」でクライアントに紐づく連絡先担当者を表示するのが一般的です。
これにより、「案件」ページから直接、関連するクライアントの連絡先担当者を確認できるようになります。
活用と効率化のテクニック
構築したデータベースは、Notionの様々な機能を活用することで、さらに効率的な運用が可能です。
ビューを使いこなす
同じデータベースでも、表示形式(ビュー)を切り替えることで、異なる側面から情報を把握できます。
- テーブルビュー: 全体の情報を一覧で確認し、ソートやフィルターで特定の条件に絞り込む際に便利です。
- ボードビュー: 案件ステータスごとにカード形式で表示し、ドラッグ&ドロップでステータスを簡単に変更できます。カンバン方式での案件進捗管理に最適です。
- カレンダービュー: 期日プロパティをカレンダー形式で表示し、案件のスケジュール感を視覚的に把握できます。
- ギャラリービュー: クライアントロゴなどを設定している場合に、視覚的にクライアント一覧を表示するのに役立ちます。
チームや個人の役割に応じて、よく使うビューを保存しておくと便利です。
テンプレートボタン/ページテンプレートの活用
新規クライアント登録や新規案件登録の際に、毎回同じプロパティを設定するのは手間がかかります。あらかじめテンプレートを作成しておくと、ボタン一つ、またはデータベースの新規作成時にテンプレートを選択するだけで、初期設定済みのページを作成できます。
案件テンプレートの例
新規案件作成時に、最低限入力すべきプロパティ(クライアント、担当者、ステータス、期日など)をあらかじめ設定しておき、さらに案件ページ内に共通のタスクリストや情報共有用のセクション(例: 議事録リンク、関連ファイル添付場所)を含めておくことで、漏れなく効率的に案件ページを立ち上げられます。
権限設定による情報共有範囲の制御
クライアントや案件情報には機密性の高い情報が含まれる場合があります。Notionの共有設定やデータベース権限設定を活用することで、特定のメンバーにのみ閲覧・編集権限を付与するなど、適切な情報共有範囲を制御できます。ページ単位、またはデータベース単位で詳細なアクセスレベルを設定可能です。
チームでの運用ポイント
システムを構築するだけでは不十分です。チーム全体で効果的に活用するためには、いくつかの運用上のポイントがあります。
- 入力ルールの統一: 誰が入力しても同じ形式になるように、プロパティの入力ルール(例: ステータスの定義、日付の書式)を明確に定め、チーム内で共有します。
- 定期的な情報更新: 案件のステータスや期日など、変更があった情報はリアルタイムで更新することを習慣づけます。これにより、常に最新の情報に基づいた意思決定が可能となります。
- ビューの活用促進: チームメンバーが自身の役割に応じて最適なビューを使えるように、ビューの作成方法や活用例を共有します。
- 連携ツールの検討: 必要に応じて、Notion以外のツール(Slack, Google Calendarなど)との連携を検討し、情報更新の自動通知やカレンダー同期などを実現することで、さらなる効率化が期待できます。
連携による更なる効率化
Notionのデータベースは、ZapierやMake(旧Integromat)といった連携ツールを介して、様々な外部サービスと連携させることが可能です。
- 新規案件発生時のSlack通知: 案件データベースに新しいエントリが追加されたら、特定のSlackチャンネルに自動で通知を送信する。
- 期日情報のGoogle Calendar同期: 案件データベースの期日プロパティをGoogle Calendarに自動で反映させ、チームメンバーのスケジュールに組み込む。
- 問い合わせフォームからの自動連携: Webサイトの問い合わせフォームから送信された情報を、Notionのクライアントデータベースや案件データベースに自動で登録する。
これらの連携は、定型的な手作業を削減し、情報の流れを自動化することで、チームの生産性を大幅に向上させる可能性があります。
まとめ:Notionでの一元管理がもたらすメリット
Notionデータベースを用いたクライアント・案件情報の一元管理は、情報の散在を防ぎ、チームメンバーが必要な情報にいつでもアクセスできる環境を構築します。これにより、情報共有の円滑化、リアルタイムな進捗把握、担当者間の連携強化が実現し、結果としてチーム全体の業務効率と生産性の向上に大きく貢献します。
本記事で紹介したデータベース設計、構築手順、活用テクニック、運用ポイント、そして連携の可能性を参考に、ぜひ皆様のチームに最適なクライアント・案件管理システムをNotion上で構築・運用してみてください。継続的な情報管理と活用を通じて、日々の業務がより効率的になることを期待します。